もみの木通信第５号

私は、誰かが海外に行く時は、絵本をお土産に頼むことにしている。幸い、イギリスのお土産を手にする機会にめぐまれた。私の知っているイギリスの絵本作家はジョン・バーニンガムとヘレン・オクセンバリーだけなので、その2人の名前を書いて手渡した。ついでに、同じ英語圏だから、日本でも有名なアメリカ絵本の1冊ぐらいあるかな？と何人か作家の名前を書いておいた。けれど、私の手元に届いたのはジョン・バーニンガムの絵本ばかり。アメリカの作家の絵本は1冊も無かったそうだ。本当のことを言うと、私は「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」（福音館書店）の方が欲しかったのだけど…。

ジョン・バーニンガムの絵本はイギリスだけでなく世界中で人気があるそうだ。日本でもたくさん翻訳されている。それらを全て、自分で図書館の書棚から探して読んでみようとすると、これがなかなか大変だ。でも、「子どもの本を読む会」なら、ちゃんと用意してもらえる。おまけに、石巻の図書館に無い本、それも洋書であっても、ちゃんと用意してもらえるのだ。

ジョン・バーニンガムの絵本の中で、日本語版が出版されていない「Around the World in EIGHTY DAYS」という本がある（日本語だと「80日間世界1周」になるかな）。題名からわかるように、ジョン・バーニンガムが2年間かけて世界一周旅行をした、その経験から描いた絵本だそうだ。いつも会に参加なさっている方が、この絵本のことを知って、読んでみたいと希望を出した。すると、図書館の職員の方が探して、なんと！大阪府立中央図書館から借りて下さったのだ！

私も、エドガー・エンデの画集をわざわざ県立図書館から借りてもらったことがある（これは日本語でした）。ミヒャエル・エンデ（「モモ」の著者）について書いた本を読んで、彼が父、エドガー・エンデの絵に非常に影響を受けたという事を知り、なんとしてもエドガー・エンデの絵を見てみたいとリクエストカードを出したのだ。

リクエストカードに書かれた本は、探しても見つからない時は、購入する価値が認められた場合、図書館で購入するのだそうだ。私も、リクエストカードと共に新品の本を何度か受け取ったことがある。そんな時は、自分の手におえないような難しい本であっても、無理やり読む。私の読書量が増えたのは、リクエストカードのお陰かもしれない。

とにかく、公共図書館はすごいのだ。みなさん、もっと利用しよう！

で、ジョン・バーニンガムはどうなったの？そうですね。ちゃんと勉強しなきゃね。

ジョン・バーニンガムについては、いろんな方が高く評価していて、きっと素晴らしい絵本作家なのだと思うのだが、私はなんとなくしっくりこない。私が未熟だからこう感じるのだろうが、彼の作品には、ちょっと世の中を皮肉ったような感じがあって、後味が悪いからだろう。

しかし、考えてみれば、第1級の文学作品にはそういう部分が必ずある。中学生のころ、芥川龍之介の短編集を買ったが、何だか読んでいる内に辛くなった記憶がある。最近では、ノーベル賞作家だからと大江健三郎の全集（初期の作品）を図書館で借りて読もうとしたが、やっぱり苦しくなって1冊目でやめてしまった。文章が難解だからというより、後味の悪さに耐えられなくなってしまったからだ。

ジョン・バーニンガムの後味の悪さは、これらの文学作品に通じるものがあるのだろう。

だが、かく言う私も、高校生の頃には、暗いと言われるような小説が好きだったのだが。人の一生では価値観が変わるように、本の好みも変わるのだと思う。私も高校生の頃、ジョン・バーニンガムを読んだら、評価が変わっていたのだろうなあ。

第3号で娘のお気に入りの絵本を何冊か取り上げたが、この中で1冊、子どもにこの本の良さを教えてもらった絵本がある。それは「すーちゃんとねこ」。（佐野洋子作こぐま社）

この本は、すーちゃんという女の子とねこちゃんと呼ばれるネコが散歩をしていると、ねこちゃんが風船を見つける。けれども、ねこちゃんの風船をすーちゃんが盗ってしまう。ねこちゃんは一生懸命風船を返してと頼むが、すーちゃんはなかなか返さない、というお話だ。このすーちゃんという女の子の意地悪ぶりが半端でない。娘は、どうして、こんな意地悪な絵本が気に入っていってしまったのだろう。最後も、すーちゃんがねこちゃんに風船を返してめでたく終わるわけではなく、ふたりで風船を空に飛ばしてしまう。どうも気に入らない。

だが不思議な事に、こんなに気に入らないのに、この絵本は何回読んでも読み終わった後にはスカッとさわやかになる。何だか、心が解放されるようで清々しい。

そう言えば、夫婦喧嘩の後ってこんな感じだ。最後には皿が飛んで、その結果どうなるかというと、何だかうやむやの内に丸く収まる。それでいて、終わった後は、けっこうスカッとして、前より夫婦仲が良くなったかなという気がする。

人間本当に理解し合おうと思ったら、表面的な付き合いじゃだめなんだと思う。いっしょに暮らしていくためには、時には徹底的に対立することも必要なのだ。そうすることで始めて、お互いがよく理解できるのではないか。

そう思ったとたん、「すーちゃんとねこ」が好きになった。1才の子どもの方が、人間関係をずーっと理解しているんだなあ。

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「もみの木通信」を手渡すと、「子供の本を読む会ってどんな会なの？」とよく聞かれる。だが私も、この会の始まりから関わっているわけではないのでうまく説明できない。そこで図書館の職員の方に聞いてみた。

この会の始まりは、昭和49年。そのころ現在の図書館が新設されたそうだ。新設に伴い、旧図書館にはなかった児童室を設けたのだが、児童書も少なく子どもの利用も少なかったため、なんとか子どもの本に関心を持つ人を増やしたいとの思いで、図書館が主催して始められたのだそうだ。それから23年間、現在と同じように月１回、参加者がテーマを決め、それについて話し合うという会が、欠かさず、行われてきたのだそうだ。

すごく歴史のある会だったのだ。宮城県内でも、図書館主催で行われている「子供の本を読む会」は、石巻図書館のものだけなのだそうだ。なるほど、大人向けの本に対して児童書の蔵書数の多いのもうなずける。

ところで、当初の目的の『子どもの本に関心を持つ人』が増えたかというと、これはなかなか難しかったようだ。フタを開けると、地元の方の参加者が非常に少ないのだそうだ。ほとんどの参加者が転勤族の奥さんたち（かく言う私もそうだが）。したがって、せっかく興味を持ってもらっても、地元の草の根運動には結びついていないのだそうだ。

私も生まれ故郷を離れて、始めていろいろ考えるようになった。そして故郷の良さをたくさん発見し、同時に問題点も気になるようになった。人間は、故郷を離れてみないと、その良い所や悪い所を発見できないものなのだろうか？そんなものなんでしょうかねえ。　

「もみの木通信」の文責は依田晴美にあります。
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